広島市立大学日本画科の卒業生・長瀬香織さんより、学生時代から現在の活動についてお話を伺いました。
2022年9月17日
参加者
広島市立大学日本画専攻出身
長瀬香織・大橋智・山本志帆・浅埜水貴・亀川果野
長瀬さんの研究
大橋 卒業生・在校生同士が繋がれる場所として作った踊り場ですが、何度かミーティングを重ねる中で、長瀬さんの博士課程時代の研究方法の話がたびたび出て、卒業生に女性が多い中で、活動を継続することについて、いろいろ共有すべきことがあるんじゃないかという話が出ました。
ぜひお話を伺いたいなぁと思い今日に至りました。
卒業後にポーラ美術振興財団の助成をとって留学をされたんですね。
長瀬 はい。
大橋 研究対象が日本画の支持体となる紙についてですよね。その経緯についてお話を訊けたらなと思っています。
長瀬 私は広島市立大学で日本画を専攻していたのですが、当時は基底材の紙を含め筆や膠など素材についての知識がとても乏しかったです。制作した作品の保存についても全く考えていませんでした。また、博士課程に在籍していた2003〜6年辺りは、そういった素材に日本画界の人たちが少しずつ目を向け始めたような時期でもありました。和紙をテーマに博士論文を書こうと思ったきっかけは、日本画の重要な基底材である和紙についてもっと掘り下げて調べたかったからです。
和紙を研究するにあたって、和紙文化研究会(以下、和紙研)で月に一度月例会に参加し、日本画以外の様々な分野の方々と交流しました。
その過程で紙の発祥の地でもある中国にも興味を持ちました。在学中は文献や書籍でも調べましたが、現地調査が重要であると考え、日本や中国、ラオスなどに出向きました。中国の現地調査は和紙研所属の東京藝術大学稲葉政満教授が中国上海にある復旦大学の陳剛先生を紹介してくださって、一緒に中国富陽の富陽宣紙の紙漉き場をいくつか調査することができました。
浙江省富春市 富春宣紙 2005年4月8日
また、博士課程の一つ下の学年に金属工芸を専攻しているハン・ジユンさんという韓国人の方がいて、同じアジアをテーマに研究していることもあり、一緒に中国やウイグルやラオスを廻りました。
新疆ウイグル自治区和田 墨玉県 桑皮紙 2005年6月14日
それ以前にも日本の紙漉き場を廻ったりしていました。
大橋 踊り場のミーティングでも素材についての話題はよく出ます。例えば、2022年に浅埜さんが姫路にて膠文化研究会主催の古典的膠製造体験に参加した時の話や、踊り場企画で5月に行った展示「砂州に立つ」の時も膠自体を展示したりしたんですよ。
日本画をやっている人によって、材料に対する考え方が違うっていう話もしました。
長瀬 私も膠は興味があります。最近も内田あぐり先生が武蔵野美術大学で展覧会をされていましたよね。見に行きました。とても面白かったです。
浅埜 日本画材は高いっていうイメージがある。価格と普及していくことの難しさ、使い手の理解や、その人の表現方法にその素材の特性がどこまで必要なのかという関係について考えるタイミングがありますよね。
今は日本画を専攻して卒業しても日本画材を使わない人も多い。
私自身も素材に対して学生時代は大分無自覚に勉強していました。そして世代が違うと長瀬さんがそういった和紙の研究をされてきたことも知らなかったんですよね。
日本では雲肌麻紙がメジャーですけど、それぞれの国にメジャーな紙があるんですかね?現地の植物に関係したもの?
長瀬 在学中に私が調査に行ったのは楮系の紙だったんですけど、結構ゴワゴワしていたので絵を描くのには向いてなかったかな?
流し漉きではなく溜め漉きでした。ラオスも新疆ウイグル自治区もそういう原始的な漉き方だったな。少しボコボコしている感じですけど、乾く直前にお椀などで磨くので表面はツルツルしていました。
大橋 以前ビデオを観させてもらった記憶がある。何かの機会で研究内容や資料を見せてもらう会があったらいいね。
長瀬 資料のビデオや紙は、おかしな量があります。ほとんど家に眠っているだけだからもったいない気もしますけどね。いつか機会があれば発表したいです。
浅埜 膠の研究もされていらっしゃるんですね。
長瀬 膠の研究というか、ママ友仲間が偶然にも膠に詳しい大学の先生だったり、仲良くさせていただいていたご近所の方が皮革産業の会社運営されている方だったりと色々な偶然が重なりまして、膠に興味があることを色々な人に話していくうちに輪が広がり、美術館の方を含め皆で革産業の見学や、膠や貴重な古い墨を持ち寄る会を開いたりすることができたんです。
そして、持ち寄った膠や墨の中の膠成分からどんな動物からできているのかを分析してもらったりしました。
ただ私は現在膠についてとても興味があるだけで、論文を発表するわけでもなく、専門家や研究者の話を横で聞いているだけですけれど、皆さんの輪に入れていただいて人との繋がりを楽しんでいます。
浅埜 私たちも日本画の中だけで話していくには行き詰まってしまう所があると思っています。違うジャンルの人の話を聞く重要性を感じているところなんです。
長瀬さんが和紙研に入ったのは博士課程の頃ですか?
長瀬 はい、そうです。大学院の博士号を取ろうって思った博士課程一年生時に入会しました。
浅埜 和紙研は誰でも入れるものなのですか?
長瀬 興味があれば誰でも入会できます。(和紙研HP)
博士課程一年生の時に広島から東京へ行き、毎年開催される和紙研のシンポジウムを聞きに行きました。シンポジウム終了後に受付の方に「入会したいのですけど」と伝えました。多分突然の入会希望に「なんだこの子は?」と思われたと思います。
そして、和紙研に入会し定期的に月例会に通うようになりました。和紙研の先生方は気さくな方が多く、知り合いが一人もいない無知な学生をとてもやさしく受け入れてくださいました。いつも月例会の後は2次会3次会まで参加してベロベロに酔っ払っていました笑。とても楽しかったです。
飲み会では漉き手や装潢師、研究者など異なる分野の方々と交流し、「某先生の絵は薄塗りで巻くことができるんだよ」など色々と貴重な話が聞けました。とてもいい経験だったと思います。未だに和紙研ではホームページの更新に携わっています。最新の情報を知れます。書の関係者や、漉き手もいますし、販売する人も居ます。私の主人は江戸からかみという襖紙に柄を摺る伝統的な仕事をしていました。
浅埜 私も博士課程になってから調べていく内に、膠文化研究会とかいろんな素材についての研究会があって、しかもこっちが飛び込めば意外と門が開いてるってことを知りました。でもそれがわかってきた頃に卒業だったんで。あーもったいなかったなぁっていうのがあったんですよね。
でも今後も、そういうことを知っていく内に自分の表現の幅を拡げることもできるんじゃないかなと思っています。