和紙の原料となる楮を蒸す作業を、昔ながらの方法である甑(こしき)を使って行なっている工房があるという情報を知り島根県へ向かった。
到着すると、工房を運営しているご夫婦が外で仲睦まじくコーヒーを飲んでいた。挨拶をし、見学させて下さいとお願いすると当たり前のように私の分のコーヒーを淹れてくれた。
楮を蒸すとサツマイモのような香りがすると聞いてはいたが、辺りには本当に甘い匂いが漂っていた。12月のとても寒い時期に何日かに分けてこの作業は行われている。話をしながら、湯気がたつ情景を眺めていた。
楮の皮を剥ぐ「そどり」という作業は地域の人が集まり行う里山の風物詩みたいなものだったという。和紙は工房によって原料の配分や紙の漉き方が違う。この工房で作られている石州勝地半紙(せきしゅうかちじばんし)は緑の甘皮を少し残すことで水に強い和紙ができるそう。
「実は10年程前に紙漉き実習で大学の先生とこちらに伺ったことがあるんです」と伝えると工房の佐々木さんは嬉しそうにしてくれた。その頃甑はこの場所にはなく別の場所にあったそうだ。とても貴重なものである為日本遺産にも認定され、時折記者が取材に来たりするという。
話を伺うと近くでは神楽やお米を祀るお祭りがあるらしい。神楽の大蛇は和紙で作られているし、お米を祀るお祭りでは和紙にお米を包んで吉兆を占うそう。いずれも和紙が関係している。なんだか気になる文化が、島根には根付いている。
こちらの石州勝地半紙工房では、ご夫婦で楮の栽培と共に和紙作りに欠かせないトロロアオイも自家栽培しているそう。
絵画用の和紙から小物等の商品化まで行っている。
15年くらい絵を描いているのだが振り返ると自分が見過ごしてきた事が沢山あるように思う。少しずつ、そういった物事に触れていきたい。
石州勝地半紙
〒699-4431 島根県江津市桜江町長谷2696
http://sekishu-kachijiwashi.com
2021.12.20に工房を見学
そどりの作業日程につきましては毎年11月末頃に石州勝地半紙 HPやinstagram等で告知されます。ご自由に見学可能だそうです。
2022.1.15 浅埜水貴